中小企業の経営者から、
「採用がうまくいかない」
「いい人材が来ない」
「採用費が高くなっている」
という話を聞くことが、この1年ほどで以前よりさらに増えてきました。
人手不足が続く中で、採用に悩む会社はとても多いです。
求人票を見直す。
採用ページを整える。
採用媒体を変える。
給与や勤務条件を見直す。
TikTokなどのSNSで会社の魅力を発信する。
こうした採用改善が必要な場面は、もちろんあります。
ただ、実際にお話を聞いていくと、
「採用」だけでなく、
「定着」や「マネジメント」に課題を抱えているケースが多くあります。
採用がまったくできていないわけではない。
過去に人を採ったこともある。
でも、その人が続かなかった。
辞めてほしくない人ほど辞めてしまった。
新しく入った人が、仕事を覚える前に離れてしまった。
こうした話を聞いていくと、課題は「人が来ないこと」だけではなく、
来た人が残れる状態になっているか
という点にもあるのではないかと感じます。
社長は、辞めた理由に気づいていないわけではない
社員数が30名くらいまでの会社であれば、社長が辞めた人のことをまったく把握していない、ということは少ないと思います。
むしろ、多くの社長はよく見ています。
「あの上司の関わり方が影響していたのかもしれない」
「仕事の進め方がわからなかったのかもしれない」
「もう少し相談してくれればよかったのに」
「期待していたけれど、少し負荷が大きかったのかもしれない」
このくらいのことは、よく理解していることのほうが多いのではないでしょうか。
問題は、辞めた理由がまったく見えていないことではありません。
見えている。
心当たりもある。
でも、会社としてどう変えるかまでは手が回っていない。
ここに、本当の難しさがあります。
定着の課題は、主に3つに分けて考える
定着の課題は、
「人が辞めないようにしましょう」
という一言では片づきません。
お話を聞いていると、特に次の3つの部分で課題を抱えている会社が多いように思います。
1つ目は、上司やベテラン社員の部下への関わり方。
2つ目は、新しく入った人が仕事の進め方を理解できる仕組み。
3つ目は、本人に求める成果や評価基準の伝え方です。
どれも「人が辞める」という結果につながりますが、原因が違えば打ち手も変わります。
1. 上司やベテランのマネジメントに課題がある場合
定着の課題で難しいのは、原因が上司やベテラン社員の部下への関わり方にある場合です。
その人は、昔から会社を支えてくれた人かもしれません。
仕事ができる人かもしれません。
お客様との関係を持っている人かもしれません。
だからこそ、社長としても簡単には扱えません。
ただ、指示の出し方が曖昧だったり、質問しづらい雰囲気があったり、失敗したときに責めるばかりで次の行動を一緒に考えなかったりすると、新しく入った人や、これから育ってほしい人は定着しにくくなります。
本人に悪気があるとは限りません。
むしろ、本人としては
「きちんと指導している」
「仕事の厳しさを教えている」
と思っていることもあります。
しかし、部下から見ると、相談しにくい。
何を求められているかわからない。
できていないことばかり指摘される。
安心して質問や報告ができない。
この状態では、社長が一度注意しただけで改善するとは限りません。
「言っても変わらない」のは、性格の問題というより、マネジメントのやり方が本人任せになっているからかもしれません。
その場合は、個人の反省に任せるだけではなく、会社として仕組みを整える必要があります。
相談できる相手や窓口を別に置く。
管理職や教育担当者に対して、部下育成やマネジメントに関する研修を行う。
評価基準の中に、部下育成や職場づくりの視点を入れる。
会社として許さない言動を明確にする。
パワハラにあたるような言動がある場合は、当然、早急な対応が必要です。
ただ、そこまで明確なハラスメントではなくても、日々の関わり方やマネジメントの積み重ねによって、人が辞めてしまうことはあります。
2. 「相談してくれればよかったのに」で終わらせない
仕事のやり方がわからずに辞めてしまうケースもあります。
社長からすると、
「わからないなら聞いてくれればよかったのに」
と思うかもしれません。
ただ、本人からすると、聞きにくい状態だったのかもしれません。
誰に聞けばいいかわからない。
上司がいつも忙しそうにしている。
一度聞いたら、嫌な顔をされた。
前にも言ったよね、と言われた。
何がわからないのかもわからない。
この状態で「相談してくれればよかったのに」と言っても、改善にはつながりにくいです。
必要なのは、相談する本人の勇気だけではなく、相談できる構造です。
OJTトレーナーを明確にする。
入社後しばらくは、定期的なフォロー面談を行う。
仕事の進め方に関する研修を取り入れる。
マニュアルやチェックリストを整備する。
「困ったときは誰に、どのタイミングで相談するか」を決めておく。
こうした仕組みがあるだけで、新しく入った人の不安はかなり減ります。
特に中小企業では、
「見て覚える」
「空気を読んで動く」
に頼りすぎていることがあります。
長くいる人にとっては当たり前でも、新しく入った人にとってはまったく当たり前ではありません。
そこを放置したまま採用を増やしても、また同じところでつまずいてしまいます。
3. 成果を求めすぎていないか
もう一つ多いのが、求める成果が大きすぎるケースです。
もちろん、会社として成果を求めることは必要です。
仕事である以上、期待する役割があります。
ただ、何をどこまでできればよいのかが曖昧なまま、結果だけを求めてしまうと、従業員は疲弊します。
頑張っているのに評価されていない。
何を改善すればよいかわからない。
できていないことばかり指摘される。
成長途中のプロセスを見てもらえていない。
このように感じると、前向きな人ほど苦しくなります。
この場合は、評価基準を明確にすることが大切です。
成果だけでなく、プロセスも見る。
今月は何ができるようになればよいのかを明確にする。
1on1などで、目標・進捗・課題を定期的に確認する。
本人任せにせず、上司と一緒にPDCAを回す。
「頑張ってほしい」だけでは、人は動きにくいです。
何を期待されているのか。
どこまでできれば前進なのか。
何を改善すればよいのか。
そこが見えると、同じ成果目標でも受け止め方は変わります。
採用改善が不要なわけではない
ここまで書くと、採用改善は不要だと言っているように聞こえるかもしれません。
もちろん、そうではありません。
求人票の見せ方を変えること。
採用ページを整えること。
会社の魅力を伝えること。
採用条件を見直すこと。
応募者とのコミュニケーションを改善すること。
これらが必要な場面はあります。
ただ、採用の相談として話を聞いていくと、最初の打ち手が採用改善ではないことも多いと感じます。
なぜなら、人が入っても残れない状態のままでは、採用活動を強化しても同じことが繰り返されるからです。
採用費をかける。
人が入る。
でも定着しない。
また採用費をかける。
この流れになると、会社にとっても、現場で働く人にとっても負担が大きくなります。
だからこそ、採用に困っているときほど、まず話を聞いていく必要があります。
本当に応募が来ないことが問題なのか。
応募は来ているが、採用につながっていないのか。
採用はできているが、定着していないのか。
定着しない原因は、上司の関わり方なのか。
仕事の教え方なのか。
評価や期待値の問題なのか。
ここを整理しないまま、採用活動だけを強化しても、根本的な解決にはなりにくいと思います。
採用の相談は、会社の中を見直すきっかけになる
採用に困っているという相談から始まっても、話を聞いていくと、定着やマネジメントの課題が見えてくることがあります。
それは、採用の悩みが間違っているということではありません。
社長が採用に困っているのは事実です。
人が足りないのも事実です。
いい人材に来てほしいと思うのも当然です。
ただ、その悩みの奥に、会社の中で変えられる課題が隠れていることがあります。
人が辞める理由に心当たりがあるなら、それを「困ったな」で終わらせない。
「言っても変わらない」で止めずに、仕組みに変える。
採用した人が残り、育ち、力を発揮できる環境を整える。
採用の相談は、会社の外に向いた話に見えます。
でも、実際には会社の中を見直すきっかけになることも多いのです。
採用活動を強化する前に、まずは
来た人が残れる会社になっているか
を考えてみる。
そこから見えてくる課題は、少なくないのではないかと思います。
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